コラム



「ホセイン・アリザーデ」


ホセイン・アリザーデはタールとセタールという發弦楽器のマスターで1951年にイランのテヘランで生まれている。彼は西欧のオーケストラのためにも作品を書いている。和声とメロディーは西欧理論をペルシァのメロディーに応用したという、ものではなく、ペルシァの伝統的な音楽の方法論によっていて、独特でモダンだ。
彼が即興演奏で制作した『ホムナヴァイ』などCDをはじめて聴いた時、その音楽がグレートフル・デッド、クリームといった1960年代の即興によるロック音楽に似ていてびっくりした。とはいうものの彼らがインドのラーガ音楽に影響を受けたわけで、アリザーデによれば、北インドのラーガのあるものやペルシャ古典音楽で用いられるモチーフが同じなのは、そもそも同じ音楽から分派していったからだし、お互い同じスタイルの即興演奏に基づいているからだという。彼は、彼と同じ即興演奏のスタイルを追求している高名なインドの音楽家との共演経験もある。音楽家と聴衆の応酬が創り出すとても自然な音楽を聴いていると湧き上がってくる、自由な感じがある。伝統音楽の巨匠であり、伝統的なペルシャ(音楽)のモチーフの全てを録音してきたアリザーデだが、その場所で感じた事を演奏したいと言う。音楽家はいったん彼の志す技法の文法や語法を習得して、それから会得したものを聴衆との交歓の量として使うべきである。そのようにする事によってのみ演奏家は本当に彼の生活と時代に応じた彼自身の感情を表現できるのだ、彼は言う。

多くのイラン古典音楽には詩があり、ルーミーのように高名なスーフィーの詩人ものにつけられた歌がある。スーフィーは、しばしば厳格なムスリムがその信仰を禁じるという神秘主義的な宗教の一派である。スーフィー信者にとって、音楽は悟りに到達するための重要な部分を担っている。ルーミーが書いたものは大低、ユーモアや暖かさ、愛に満ちている。その意味するところは今でも通用する。
“ダストガハ”とはシステムという意味を持つ言葉で、イランの伝統音楽に使用される12の旋法(モード)にもつけられている。光のプリズムの12色に喩えられている。イラン、インドの古典音楽双方において、それぞれの旋法(音階)にはそれぞれの相応しい演奏の時間帯があり、それぞれの異なったムードや色彩がある。たとえば、『ナヴァー』という旋法は、夜に演奏されるもので、一方『シュール』(12のダストガハ全ての元)は、午後、演奏されるものだ。そして『チャハルガハ』は朝なのだ。『ホマユーン』は日暮れに演奏さえ、火、エクスタシー、そして緑色を意味する。アリザーデは、巨匠とされる音楽家は伝統的な詩人が書いた詩を読めばたちどころにどのダストガハで歌うものなのかが分かると言う。彼は、伝統音楽で会得した音楽に基づいて現代イラン語の新しい作品も作っている。
日本でも明治時代以前にはどの日のどの時間帯になにを演奏するべきかを易や陰陽五元説で決めたりしていた。私の友人は、インド音楽を学びにインドへ行った時、なぜあるラーガには一日のある時間帯が対応しているのかが分かった、という。つまり、特定の周波数には他のどの時間帯よりも合う特定の時間帯がある、というのだ。ラジオやテレビで育った人たちが忘れかけている、伝統の一つ、なのだ。