現在執筆中のAyuoの自伝的小説からの抜粋コーナー



 

「何故1960年代のドラッグが無意味になったか。」


脳についてはいろいろな発見が最近されています。 1960年代から70年代にLSD,マリファナやハシ-シュなどのドラッグが流行った時代ではまだ具体的に脳にこれらがどのような影響を与えていたかを科学的に説明されることは少なかった。誤解も多かった。その誤解は反対派による否定的な物も賛成派による肯定的なものあった。今ではアメリカやヨーロッパでマリファナが合法的になっている国や州もあるので、以前よりはたくさんの研究がされている。レスリー・L.アイヴァ-ソンの『マリファナの科学』という本では科学的に脳への影響を分析している。

最近読んだ本では関田一喜という日本人が英語で書いた『Zen Training: Methods And Philosophy』という本が特に面白かった。関田一喜(1893-1987)は1945年に高校の先生を引退してから、禅宗を教える人として広く知られようになり、1963年から1970年にハワイで禅宗の先生として活動していた人である。この本は日本で元々坐禅の実践的な入門書元として書かれた『坐禅の構造と実践』をアメリカの60年代のヒッピーたちにも分かり易いように書き直した本だ。当時、坐禅をするとLSDから得られる効果を自然に得る事が出来るという噂が広まっていた。逆にLSDにもInstant Zenという呼び方を付けた人たちもいた。それはLSDを取っただけで世の中の見え方が変り、悟りを開けるだろうという意味で広まった。この英語の本を読むと坐禅や深い瞑想の訓練した結果にはLSDの一部の効果と似ている部分があるのが理解出来る。

脳のはたらきは神経細胞が複雑なシナプスによりニューロン網という回路で繋がっている。これはコンピューターからネットを通して全世界につながっているのと同じような仕組になっている。このシナプスの伝達物質である脳内物質が数十種類存在すると言われています。神経と神経の間には1/1000ミリ程度の隙間があり、そこに神経伝達物質が放出されることによって、情報伝達がおこなわれ、その物質の種類によって感情が生まれる。

ドーパミン:A7からA16神経で分泌され、快感に関係する。この分泌が多いと食欲や性欲がわく。恋愛によるハイな感覚もドーパミンによるもの。脳を調べると恋愛の状態とコカインというドラッグを取った状態は似ている。ただし、コカインは化学的にDNAのレベルから身体に変化を与えてしまうので健康にかなり悪い。

ノルアドレナリン:A4からA6神経で分泌される。不安症や恐怖症に関係するといわれている。多く分泌するとネガティヴな気持ちになる。鬱(うつ)病の人はノルアドレナリンの分泌が多くなっている。

セロトニン:B1からB9神経で分泌され、心自体の安定に関係する。平常心をもたらす。うつ病を押さえて、頭の冴えた前向きな気分にしてくれる。殺人者、自殺者にはセロトニンが不足している人が多いと言われている。LSDというドラッグはセロトニン受容体を刺激する。坐禅の効果もセロトニン神経を活性化させる。坐禅の修行中、強く活性化さらた場合に一時的に出現する幻覚体験はサイケデリック・アートやLSD体験に近いと言われている。最近ではうつ病やキレル脳を治すためにセロトニンの神経の活性化が研究が活発に行なっている。

エンドルフィン(オピオイド):幸福感が伝わって来る。痛みがやわらぐ。マラソン中にランナーに分泌される幸福感の状態がランナーズ・ハイと呼ばれていることは有名。これはエンドルフィンが脳内に分泌されることによって感じる。 オピオイドとは英語のオピウム(Opium)から来ている。日本語では阿片という意味。痛みがやわらぐために中東を始め、多くの国で薬として使われていたが、中毒性が強いためだんだん使われなくなった。

アセチルコリン:学習,目覚め,集中力,積極性などシナプス伝達物質に関与しアルツハイマーでは減少していると言われている。

カンナビノイド:CB1受容体。人間の脳では「内因性カンナビノイド」(マリファナの原料となる大麻草の学名Cannabis sativaにちなむ)と呼ばれる天然化合物“脳内マリファナ”を合成していると最近発見され、Scientific Americanなどで書かれて話題になった。内因性カンナビノイドの発生は、(1)細胞内のカルシウム濃度上昇、(2)Gq共役型の受容体の活性化、という2つのシグナルがシナプス後神経細胞で同時に起こると強く誘導される。カンナビノイドのはたらきはストレスからのリラクゼーションを与えてくれたり,慢性の痛みから解放してくれるものでもある。この伝達システムを完全に解明できれば,もっと広範な応用が可能になり,不安,痛み,吐き気,肥満,脳障害など多くの症状を解消する治療に生かせるかもしれないと一部の科学者たちは期待している。 内因性カンナビノイドは脳中枢において、食欲を調節し、脂質代謝を制御する役割も果たしているため、内因性カンナビノイド系(endoocannabinoid system)のCB1選択的にブロックして食欲を抑える新しいダイエットのための薬錠剤も発明されました。 食べたいとかタバコが吸いたいなどの生理的な欲求が出ると、脳内で「内因性カンナビノイド機能」というのが働くことが知られています。 マリファナをよく吸っていた人はカンナビノイド受容体を刺激していたため、後に肥満になる可能性も知られている。

LSD、マリファナとハシーシュ(大麻樹脂)が1960年代でサイケデリック・ドラッグと呼ばれていたものだった。 なかでもマリファナはソフト・ドラッグとしてオランダでは合法的になっていて、アメリカでは州によって医療利用することは認めている。しかし、オランダでもほとんどのユーザーは20代前半で30代になるともうやめる人が多い。

多くの人たちにとっては10代後半から20代に体験してから必要がなくなる。 しかし、マリファナをコカインやクラック(純化コカイン)と混ぜたドラッグを作って、吸い出すとコカインに中毒性があるため命に係わる結果になってしまう場合がある。

1960年代のロック・ミュージシャンの中には瞑想、ヨガ、ボディ・ビルを始めた人たちが多い。それにも理由がある。それは朝早く起きて、食生活に気を使いながら、坐禅、瞑想、呼吸法などをやると、ドラッグより求めていた同じ効果をよりコントロールした状態で得られると気が付いたからだ。

ジェファーソン・エアプレーンの元ギタリスト、ヨーマ・コーカネンをアメリカのオハイオ州でやっている。そこではノー・アルコール、ノー・タバコ、ノー・ドラッグになっている。ヨーマ自身は毎朝の6時にはボディ・ビルの体操を始る。彼は1960年代ではLSD、マリファナを始めてから、ハード・ドラッグに移り、コカインやヘロインのジャンキーになっていた。しかし、マラソン・ランナーがランナーズ・ハイを得られるのと同じようにボディ・ビルをしながらハイになれる事を発見した。そして、全てのドラッグが必要になくなった。

最近読んだ本の中には玄侑宗久の『アブラクサスの祭』という小説がある。この本の作家は芥川賞を受賞し、現在は臨済宗妙心寺派の福聚寺副住職。レギュラーに小説以外にも『脳と禅』、『あの世、この世』、『私だけの仏教—あなただけの仏教入門』などエッセイ集から対談集まで多く出版されている。この小説の主人公はザ・ドアーズ、ルー・リード、ベルベット・アンダーグラウンド、パティ・スミスなどの音楽に影響されてドラッグをやりながらロック・バンドをやっていたが、分裂症まじりの躁鬱病になり、自殺未遂の後、東北地方のお寺で僧侶の修行をしている。彼はザ・ドアーズの曲Break on Through to the Other Sideのように、ドアの“向こう側”の未知なる世界を求めて、ドアを突き破って行った人が好きだった。人間の限界への挑戦や精神の解放を目指したかった。彼はやっと実現にこぎつけたライブのステージ上で強烈な恍惚と安らぎを感じる。そしてお寺での修行とロックが一体化して、心が解放されてゆく。

自然に自分の脳からハイな状態を作る事が出来れば、それがベストの状態だ。何も薬や薬草でセロトニン受容体やカンナビノイド受容体を刺激する必要がなくなる。