現在執筆中のAyuoの自伝的小説からの抜粋コーナー



 

「End of Earth」


End of Earth by Ayuo

デビッド・ロードとイギリスのバースのクレッサント・スタジオで録音する日にちが決まり、ミュージシャンにファアポート・コンヴェンションのドラマー、デイヴ・マタックスやスティーライ・スパンのヴォーカリスト、マディー・プライアーの参加が決まった後、僕はイギリスの南西の旅行に出かけた。楽器はプサルトリーという中世時代からある小さなスティール弦の楽器だけ持っていった。グラストンベリーに行って、そこからウェルズという小さな町に行った。ウェルズとは英語で井戸という意味で町に小さな井戸が幾つもあった。13世紀から残っている通りがそのままあるという町だ。古いヨーロッパのお話に出てきそうな町だった。でも泊まった宿はイタリーから来た人がやっていた。まだ強いイタリーなまりが残っていた。部屋の中で『サイレント・スプリングス』(静かな噴水)という曲を作った。この町の僕が受けた印象だった。
ウェルズから西の方へ行くバスにのった。そしてコーンウォール州に行った。コーンウォール州のBudeという海辺の町がそのバスの終点だった。町の人々の顔は塩風を浴びたざらざらとした肌になっていた。この町から南には電車はなかった。一日に一本のバスがあるくらいだけだった。僕は海辺の安いベッド・アンド・ブレクファストの宿のドアを叩いて、部屋は空いているかと聞いた。東洋人の僕の顔を見て、珍しそうな顔をしながら、空いていると答えてくれた。8ポンド50ペンスだった。(朝食を含めて2000円もしなかった。)もう夜の10時過ぎだった。シャワーを取って、すぐに寝た。
次の朝、かもめの声で起きた。僕の泊まっている窓の周りの木の部分をくちばしで泣きながら叩いていた。ここまで大きな声で泣くかもめはそれ以前にもその後にも聴いた事がない。
朝食を食べてから、町のバスのインフォーメーションがある場所を聞いて、お金を払ってからすぐに出かけた。一日に一本しかバスがなく、朝の10時に出発した。イギリスのこのあたりは夏のいい日はすごく美しい。森や木々の多い緑が続き、その間に古い小さな町や小川がある。数時間でティンテイジェルという町に付いた。この町のはじっこには古いお城の後がある。そこに2000年くらい前にコーンウォールのマーク王がアイルランドのお姫様イゾルデを女王に迎えたと言われている。
ワグナーのオペラでも有名になったトリスタンとイゾルデの物語りはここから来ている。そして何百年も吟遊詩人たちの間でこの話は語られ続けられた。元インクレディブル・ストリング・バンドのシンガーのロビン・ウイリアムソンはケルト・ハープッで伴奏しながら、中世の吟遊詩人にもっとも雰囲気が近いと思われるような演奏をしている。その演奏は彼のヴィデオ『An Evening with Robin Williamson』でも見られる。他にもアンサンブル・パルシファルという中世音楽を昔の楽器で再現するグループが中世時代のトリスタンとイゾルデの物語りを再現したレコードを出している。
お城の大部分はもうすでに崩壊しているが、何か神秘的な雰囲気が漂っている。海に面していて、塩風が吹く中にかもめもたくさん飛んでいた。そばには古い教会と墓場があった。
夕方帰ろうと思ったらもうバスもなく、他の交通手段はまったくなかった。電車もこのあたりではなかった。道路に立って、ヒッチハイクをする事にした。誰も止まらないまま、隣りの町まで歩いた。Camelfordと言う町だった。昔伝説のキャメロットというアーサー王のお城があったと言われている場所だが、2ブロックしかない全くのいなか町だった。町のはずれには不良の中学生がタバコを吸いながらラジカセでヒップ・ホップを聴いていた。店も銀行も全て閉まっていた。トラヴェラーズ・チェックしかなく、普通のお金は殆ど切れていた。

男の2人組が泊まった。乗せてくれた。その2人は元イギリス軍の軍隊で知り合ったらしい。軍隊をインタイしてからも毎年2人だけ旅行をしているらしい。実はいかにもゲイのカップルだった。英語のゲイのカップルには独特な話し方をする人たちがいる。それは言葉使いではなくて、不思議とナマリとなって出て来る。声が低くても妙に女性的に音が上がったり下がったりするのだ。それと2人のしぐさもゲイらしかった。東洋人が一人で荷物を持って道路に立っているのを見て、ちょっと泊まってみようかと思ったのにちがいなかった。そしてどんな人かどんどんと質問をしていた。となりのバスがある町までは遠くはなかった。そこで下ろしてもらい、泊まる宿を探しに言った。もう疲れていたのでその町ではちゃんとした部屋に泊まりたかった。小さなホテルに泊まった。朝食付きで15ポンドだった。

お金を払ってから、次の朝のバスの時間を確かめにいった。暗いバス停には一人の女の人が座り込んでいた。髪の毛は長く、濃いメークをしていた。顔はしっかりと見ていなかったが、多分30代だった。落ち着いている感じだった。僕がバスの時間を調べに来ると『どこに泊まっているの?』と聞いて来た。
『僕はケント州に泊まっている。戻らなくていけないから、バスの時間を確かめに来たのだ』と正直に答えた。
『それでどこに泊まっているの?』とまた聞いて来た。
『だからケント州に泊まっているよ。これがバスの時間票ですよね?』
『バスはもう今夜はないよ』と彼女は言った。
時間を見てから僕はホテルの部屋に戻った。
女の人は暗いバス停に座り込んだままだった。この人は何も通じないという顔をしていた。
それから数ヵ月後、あるイギリスの映画を日本で見ていた。濃いメークをした娼婦が絵書きに話し掛けているシーンも見て、その意味が分かった。

この町には特に見るものもなかった。100年前に殺人事件があったという本がゆういつその町で作ってツーリストに売っている物だった。次の日、イギリスの南の方のエクセターに行くバスに乗った。そしてエクセターからバースに戻ってから、ケント州に帰った。


この旅からマーチンの両親の家に帰ると困った事が起きていた。母が家を飛び出したとマーチンの母が言っていた。なんとか仲直り出来るように話してみてくれないかとマーチンの母は言った。電話して見るとマーチンと別れるからその家を出てニューヨークに戻ってくれと言われた。次の週から僕がこれまでの人生でもっとも望んでいたレコーディングが始まるというのになんというタイミングの悪さだと思った。お金を全て払って、ミュージシャンも全てブッキングして、これから曲の整理やアルバムの録音準備に入ろうという所に何故こんな事が起きなければいけないのだろうと思った。MIDIレコードにもレコーディングが始まる日はすでに告してあった。僕自身はMIDIレコードの会社のお金でイギリスに来ていて、泊まるところだけはマーチンの両親のお世話になっていたが、自由に動ける状態ではなかった。さらにもう一つ分かった事はマーチンの両親は僕が2-3ヶ月もそこに泊まると思っていなかった事だ。マーチンの母が電話で『そんなに長く泊まったら困る』と言い出した時、彼は『じゃーね、よろしく』と言って電話を切ってしまった。
マーチンの浮気がきっかけとなったが、その前からもその結婚がいつまで続くか分からない状態だった。僕とマーチンがイギリスに行っている間、知らない女性から留守番電話にメッセージがあった事について、母が聴いた事から分かれ話になるきっかけとなった。僕は『来週から録音が始まるところで全てうまく行っているし、会社の仕事でここに来ているわけだから、突然止めるわけにいかない』と説明した。母は『そうなの?』と聞いていた。
その日の夜、マーチンの両親の家の机に座って、次の新しい曲の言葉を書いた。そして次の日にそれの音楽を作った。

End of Earth

人という生き物、
それは放浪者だ。
そうじゃないか?
家庭だと思っていた場所も手に取る砂ようにこぼれて行く。
そして安定しているように見えていた物も、
外れかかった柱のようだ。
いつでも崩れ倒れそうだ。
そして君が自分の人々と呼んでいる人たち。
それは一体誰の事だね?
村に集まった
部族の群れ。
今、彼らはもっと大きな集団になってきている。
しかし、近代のテクノロジーが失敗すれば、
また戦争する部族の時代に戻るだろう。
そして“なになに”の谷間や野原の
王や王子と自己宣言した者が出てくるだろう。
さあ、この夢の世界を聴いてくれ。
どこかに新しい国民がある。
どこの国境線にも囲まれていない。
どこの民族にもなっていない。
ただ、彼らには伝統だけはある。
物事のやり方、考え方。
彼らは土地を買った。
自分たちの存在をより明確にするために。
リーダーを宣言した。
自由の国
地上の楽園
彼らは『End of Earth』、“地球の果て”と自分たちを呼んだ。
今までの全ての問題に対する
最後の答え。

彼らのシンボルは海の果てに住む3つのドラゴン。
テレビではリーダーが演説をしている。
でもそのリーダーは本当はなぞなぞで話す
漫才師にすぎない。
彼らはいつも新人を入れる時、
その人の先祖のDNAを調べる。
失敗者は入れられないからね。
そして世界が病んでいる時に現れる。
彼らは船でやって来る
飛行機でやって来る
UFOでやって来る。
新しい世の中が開く
『End of Earth』、地球の終わりと共に。

コーンウォール州の一番南のはじっこにLand’s Endという町がある。その町の名前の意味は土地の終わりという意味だ。この町からたくさんの船が出て行った。コロンブス以前の中世時代では土地の終わりからあまり遠くに行くと地球が終わる所に行ってしまうと思われていた。その頃、地球は丸くなく、平面になっていると信じられていた。地球が終わる場所には3匹のドラゴンがいて、そこを通り過ぎると滝のように水と共に地獄へ落ちてしまうと思われていた。
僕はコーンウォール州から帰って、母からの電話を切るとその事件とコーンウォール州の町の名前が一緒にこの一つの歌になっていった。


Tintagel

End of Earth