現在執筆中のAyuoの自伝的小説からの抜粋コーナー



 

「キンクス 1973」


70年代の半ばに向かって、ロック・ショーはだんだん大型なエンターテインメントになって行った。キンクスはミュージカル・ロックのショーを2回も作った。モット・ザ・フープルはブロードウエイのミュージカルをやる所で一週間毎晩コンサートをやった。この時、前座はクイーンだった。デビッド・ボウイはニューヨークではミュージカルで有名なラジオ・シティー・ミュージック・ホールでコンサートをやった。それぞれのバンドがより豪華で目立つショーを作ろうとしているような気配だった。これらのショーを見に行っていた。
キンクスのミュージカル・ショーは特に凄かった。よくこんなにおおがかりでやれると思った。『Preservation』のショーの時は何人もコーラスの人やブラス・セクションを含めて、本格的のブロードウエイ・ショーをロック・ビートに乗せたようなコンサートをやっていた。これだけ大勢の人でツアーするのも大変だったかもしれない。その後一度も『Preservation』のようなおおがかりのショーをキンクスはやっていない。しかし、面白かった。アルバムよりも『Preservation』はコンサートで初めて本当に生きてきた。『Preservation』のショーはまず『Daylight』で始まった。暗闇のステージから少しづつ明かりがつくと何人もコーラスの人たちがいた。小さなVillage Greenという町の夜明けだ。そこにフラッシュというギャングがやって来て、町中の家を買って、建て直して、高く売る。フラッシュは貧しい階級からがんばってのし上がって来た人だ。甘さは許さない。"We'll buy up all the towns, and we'll knock them all down. Build a brand new world of our own�資本主義の世の中では力を持った物が勝つと歌う。フラッシュの役はステージの上でキンクスのシンガーのレイ・ディヴィスが演じている。曲の間は台詞を言っているが、お客さんにも『そうじゃないか』と見て話かける。彼と対照的なのはミスター・ブラック。ミスター・ブラックは悪い政治家から民衆を救うと歌う。全ての女性、全ての男性、一緒に立ち上がろう。いつか人々が自由になる日が来ると歌う。ミスター・ブラックの役は白黒のスクリーンからレイ・ディヴィスが歌う。スクリーンの中のレイ・ディヴィスはあまり感情でないキャラクターだが、ステージ上のフラッシュにはカリスマがある。普通のキンクスのコンサートだとレイ・ディヴィスがほとんどの曲を歌うが、『Preservation』のショーでは2人のキャラクターを演じている。『Preservation』のアルバムでは彼が歌っている曲もステージではそのキャラクターを演じている人が歌った。このアルバムからシングルに出されたヒット曲『Mirror of Love』でさえもフラッシュのガールフレンドの役を演じている女性シンガーが歌った。キンクスの昔ながらのファンにとっては昔のヒット曲をレイ・ディヴィスが中心になってやってくれないから、がっかりした人もいるかもしれない。僕にとってはこの頃のキンクスこそに一番好きな歌が入っている。『Preservation Act 2』の曲では『Oh Where Oh Where is Love』,『Nothing Lasts Forever』や『Mirror of Love』が特に好きだ。

愛は一体どこにあるの?『Oh Where Oh Where is Love』

インチキ話や殺人や自殺がある世の中で愛やロマンスの場所はない。
悪意や憎しみや恨みのある世の中で正直になれるわけがない。
そして毎晩、目を閉じる時に星に聞く、
愛は、愛は、一体どこにあるの?
絵本や童話で読んだような
愛やロマンス、
人々が普通に昔の暮らしでしていたと聞いていたものは一体どこにあるの?
どこに行ってしまったの?
愛はどこ?
希望はどこ?
同情とか信頼は一体どこにあるの?
信用はどこ?
シンプルな物に対する喜びはまだ存在するの?
人に対する敬意や尊敬はどうなったの?
愛は、愛は、一体どこにあるの?


世界はぐるぐる回りながら変って行く、
そして僕の頭は勉強したもので一杯だ。
でも考えはしょっちゅう昔おぼえた事に戻ってしまう。
僕ももっと強くなるべきだと分かっているが、
それでも気持ちは治まらない。
そして奥深いところから叫び声が聴こえる。
愛は、愛は、一体どこにあるの?
絵本や童話で読んだような
愛やロマンス、
人々が普通に昔の暮らしでしていたと聞いていたものは一体どこにあるの?
どこに行ってしまったの?

インチキ話や殺人や自殺がある世の中で愛やロマンスの場所はない。
強姦や憎しみや恨みのある世の中で正直になれるわけがない。
そして毎晩、目を閉じる時に星に聞く、
愛は、愛は、一体どこにあるの?
愛はどこ?
希望はどこ?
同情とか信頼は一体どこにあるの?
信用はどこ?
シンプルな物に対する喜びはまだ存在するの?
人に対する敬意や尊敬はどうなったの?
愛は、愛は、一体どこにあるの?

『Preservation』のストーリーではフラッシュの魂がフラッシュに語る
『君は国や人々のためだと言っていたが、自分のために行動してなかったじゃないか』 フラッシュはそのギモンを持ち出してから弱くなり、ガールフレンドも去ってしまい、ミスター・ブラックに捕まってしまう。ミスター・ブラックは働くものための国を作る。そこではみんなの脳も監視されている。ターザンのような体をしていて、キャリー・グラントのような美男子の新しい人工的な男を作り出して行く"タフな時代になった。でも昔の事を考えてもしょうがない。みんなで手をつないで、新しい時代に向かって歩こう。ブレイブ・ニュー・ワールドが始まった。"とコーラスで歌って終わる。
『Preservation』のショーは赤字だったかもしれない。その後このようなおおがかりのショーでキンクスはツアーした事がない。この頃だったから出来た事かもしれない。しかしよかった。
キンクスの次のツアーでは人数を減らしてミニチャ-版のミュージカル・ショーをやった。『Soap Opera』というタイトルだった。一部では『Preservation』の曲を中心に歌って、2部では『Soap Opera』のアルバムの曲を全曲台詞入りでやった。今度は一人の女優のみをツアーに連れてきた。ストーリーはロック・スターでプロデューサーが普通の9時から5時に働くサラリーマンの生活を試してみると言う内容だった。最後になって実は本当は逆でサラリーマンがロック・スターの夢を見ていたと奥さんは言う。その時にレイ・ディヴィスは『嘘だ、オレはロック・スターだ』と言って次から次へとキンクスのヒット曲を弾いて行くきっかけになる。そしてそれらの曲を聴きたかったお客さんを喜ばせる。だがやっぱり普通の人でロック・スターではなかったと言う事でストーリーは終わる。このコンサートも面白かったが、僕にとっては『Preservation』の方が好きだった。


photo by Ayuo